DX人材は現場から育てる。「IoT道場」で実現した自社開発の仕組み

工場内でシステムやセンサーを使いIoT技術を学ぶ現場社員

「DXを進めたい。でも、社内にシステムを作れる人材がいない」

製造業の方と話をすると、こうした声をよく耳にします。専門的なIT人材を新たに採用しようとしても、特に地方の中小製造業では簡単ではありません。

T-SmartArunが選んだのは、最初からシステムに詳しい人を探すことではありませんでした。

「現場をよく知る社員が、必要なデジタル技術を身につける」

そこで社内に設けたのが、現場社員をDX人材へ育てる「IoT道場」でした。

改善前の課題

製造現場には、設備の状態や作業方法、品質上の注意点など、長年の経験によって蓄積された多くの知識があります。一方で、その知識をデジタル技術と結び付け、システムとして形にできる人材は限られています。
新たにIT人材を採用しようとしても、製造業の現場とデジタル技術の両方に詳しい人材を見つけることは簡単ではありません。
外部のシステム会社へ依頼する場合も、設備の特徴や仕事の流れ、作業者がどこで困っているのかを一つずつ説明する必要があります。それでも、言葉だけでは伝えにくい現場特有の事情や、長年の経験による判断まですべて理解してもらうには時間がかかります。
また、完成したシステムが現場の実情に合わなかった場合、少し修正するだけでも外部への依頼や追加費用が必要になります。

❝ DXを進めたいが、それを担う人材がいない ❞

この問題を解決しなければ、デジタル化を一時的な取り組みではなく、現場が自ら続けられる改善活動にすることはできませんでした。

発想を逆転する。現場を知る人が技術を学ぶ

システムを構築する場合、一般的にはシステムに詳しい技術者が現場へ入り、作業内容を聞き取って仕組みを考えます。
しかしT-SmartArunでは、この順番を逆にしました。

システムに詳しい人が現場を覚えるのではなく、現場に詳しい人がデジタル技術を覚える

現場で働く社員は、設備の癖や工程同士のつながり、作業者が負担に感じていることをすでに理解しています。手順書には書かれていない判断や、少しの違いが品質に影響するポイントも知っています。
その社員がシステムを作るための技術を身につければ、長い説明をしなくても、本当に必要な機能を自分で考えられます。

さらに、自分自身が働く職場で使う仕組みだからこそ、操作しにくい部分や不足している機能にもすぐ気づくことができます。完成後の修正や改善も、現場の声を聞きながら素早く進められます。

デジタル技術は、基礎から順番に学び、小さな仕組みを実際に作りながら身につけていくことができます。
一方、長年の仕事を通して蓄積された現場の知識は、短期間で身につけられるものではありません。
だからこそT-SmartArunでは、現場経験を持つ社員をDX人材として育てることにしました。

社内研修「IoT道場」で、基礎から実践へ

T-Smartでは、現場社員をDX人材として育てるため、社内研修会「IoT道場」を始めました。
当初参加したのは、工場の業務をよく知るリーダークラスの社員4名です。システム開発の経験者を選んだのではなく、新しい技術を学び、現場を改善したいという希望を持つ社員から参加者を募りました。

参加者は、普段の工場業務を続けながら研修に参加します。現場から完全に離れて勉強だけをするのではなく、学んだ技術を自分の職場へ持ち帰り、実際の課題と結びつけることを重視しました。

IoT道場では、次のような流れで少しずつ技術を身につけていきます。

  • プログラムや通信、データ活用の基礎を学ぶ
  • 制御機器やセンサーなどの機器を実際に動かす
  • 現場にある小さな課題を題材に仕組みを作る
  • 作った仕組みを現場で使用し、意見を聞いて修正する
  • 経験を積みながら、より大きな課題へ挑戦する

最初から大規模なシステム開発を目指したわけではありません。まずは小さな課題を一つ解決し、実際に現場で使ってもらうところから始めました。
自分が作った仕組みによって仕事が楽になり、現場から「使いやすくなった」「ありがとう」という声を聞くことが、次の学習や改善への大きな原動力になります。

こうした学習と実践を繰り返し、参加したメンバーは約3年をかけて、それぞれが現場の要望を聞き取り、自らシステムを構築できる人材へ成長していきました。

現場を知る人が作るから、改善が続く

現場社員がシステムを作る最大の強みは、目の前の課題を自分自身の問題として捉えられることです。

普段からその仕事に関わっているため、どの作業に時間がかかっているのか、どこで間違いが起きやすいのか、作業者がどのような負担を感じているのかを具体的に理解しています。
そのため、必要以上に大がかりなシステムを作るのではなく、既存の設備や仕組みを活用しながら、本当に必要な機能から小さく始めることができます。

また、実際に使う社員と開発する社員が同じ工場で働いているため、「ボタンの位置を変えてほしい」「この情報も一緒に表示してほしい」といった意見をすぐに確認できます。
作って終わりではなく、現場で使用し、意見を聞き、修正する。この繰り返しによって、システムは少しずつ現場に合ったものへ成長していきます。

このような改善が評価され始めると、他の職場からも「自分たちの仕事も改善できないか」という相談が寄せられるようになります。

❝ 一つの成功が、次の改善と次の人材育成につながっていく ❞

これが、現場の中でDX人材を育てる大きな効果です。

開発した仕組みを現場社員から感謝され、次の改善案を考える社員

育った人が、次の人を育てる

IoT道場で育ったメンバーが現場の課題を解決できるようになると、変化はシステム開発だけにとどまりませんでした。
身近な社員が作った仕組みによって仕事が楽になる様子を見たことで、他の社員からも改善のアイデアや相談、自分も学びたいという声が出るようになりました。

「この作業にもセンサーを使えないか」
「この記録を自動化できないか」
「今の状態をモニターに表示できないか」

それまで仕方がないと思われていた手間や不便を、改善できる課題として捉える雰囲気が少しずつ工場内に広がっていきました。

T-SmartArunが次に目指したのは、最初に育ったメンバーが新しい人を指導し、人材育成を継続できる仕組みにすることです。
そのため、社内でDXやIoTに関する力量評価制度を制定し、教育が可能な力量までレベルアップした社員が次の社員の教育を行う仕組みを作りました。

そして、人に教えることは、教える側の成長にもつながります。自分が学んだ技術を整理し、相手に分かりやすく説明することで、知識への理解がさらに深まります。
一人の担当者がすべてを抱えるのではなく、学んだ人が次の人を育てる。そうすることで、技術やノウハウが個人のものではなく、会社全体の力として蓄積されていきます。

❝ システムを導入するだけでなく、改善を続けられる人と文化を社内に作る ❞

それが、T-SmartArunが考えるDX人材育成です。

人材育成によって生まれた効果

IoT道場の取り組みによって、単にシステムを開発できる社員が増えただけではなく、現場改善の進め方そのものにも変化が生まれました。

  • 現場に合ったシステムを作れるようになった
    設備や作業方法を知る社員が開発するため、本当に必要な機能を備えた仕組みを構築できます。
  • 改善や修正への対応が早くなった
    現場から出た意見を開発担当者が直接聞き、実際の使用状況を確認しながら改善できます。
  • 技術やノウハウの属人化を防げるようになった
    複数の社員が技術を学び、互いに相談できる体制をつくることで、一人の担当者だけに負担が集中することを防ぎます。
  • 社員の仕事に対する意識が変化した
    自分のアイデアによって仕事が楽になり、周囲から感謝される経験が、次の改善へ挑戦する意欲につながります。
  • 現場から改善提案が出るようになった
    実際の成果を見た社員が、自分たちの職場にある困りごとにも目を向け、相談や提案を行うようになりました。
  • 改善を継続できる組織づくりにつながった
    育った社員が次の人材を育てることで、システム開発と人材育成を継続できる体制が生まれます。

システムは、完成した瞬間がゴールではありません。現場や製品、働き方が変われば、必要とされる機能も変化します。
だからこそ、社内に改善を続けられる人材がいることは、導入するシステムそのものと同じくらい大きな価値を持ちます。

まとめ

T-SmartArun自身も、最初からシステム開発の経験者がそろっていたわけではありません。
現場を知る社員が基礎から学び、小さな仕組みを作り、失敗や修正を経験しながら、少しずつ自立できる人材へ成長してきました。
そのため、「DXを進めたいが、社内に任せられる人材がいない」という企業の悩みを、私たち自身の経験としてよく理解しています。

製造業のDXを進めるうえで、専門的なデジタル人材を外部から採用することだけが答えではありません。
設備の特徴や作業の流れ、そこで働く人の困りごとを知っている現場社員は、すでにDX人材として大切な知識を持っています。
必要なのは、その現場知識にデジタル技術を結び付け、小さな課題解決を経験できる環境です。

T-SmartArunでは、社内研修「IoT道場」を通して、現場社員が基礎から技術を学び、実際の課題を解決しながら成長する仕組みをつくってきました。
その結果、現場に合ったシステムが生まれただけでなく、社員から改善提案が出るようになり、育った人が次の人を育てる流れも生まれています。

「社内にそんな人材はいない」と感じている会社でも、現場の中には改善への思いや可能性を持った社員がいるかもしれません。

❝「そんな人材はいない」からスタートしました。現場を知る人が技術を学び、仲間の困りごとを一つずつ解決する。その積み重ねが、会社のDXを動かし続けます。❞

自動化された工場の前に並ぶIoT道場の指導者とリーダー

この取り組みは、ふくいDX事例集サイトでも紹介されています。

※当サイトで使用している画像・動画・デザインには、生成AI技術によるイメージ表現が含まれています。詳しくは「サイトポリシー」をご確認ください。